Pdナノ粒子触媒反応

パラジウムナノ粒子を用いる水素化反応

アルキン類の部分水素化反応は、アルケン化合物を得るもっとも直接的な方法の一つです。その重要性のため、古くから多くの検討がなされてきました。教科書ではよく鉛の添加により被毒(不活性化)した固体パラジウム触媒(リンドラー触媒)が(Z)-アルケンの合成に利用されることが紹介されていますが、実際には再現性が低いうえに、反応の推移を注意深く観察して適切に反応を停止しないと(E)-アルケンの異性化反応やアルカンへの過剰な還元反応が進行してしまい、目的のアルケン生成物を高収率で得ることができません。これは、リンドラー触媒が被毒されてもなお、アルケンを水素化または異性化させる触媒機能をもち、アルキンが消費されるとアルケンの反応を抑制できないことを示しています。わたしたちは、リンドラー触媒に勝るアルキン選択性を示す触媒の開発を目指して検討を行いました。
わたしたちは、触媒として有効面積が広く、単一の性質を賦与させることが可能なパラジウムナノ粒子に着目しました。種々条件を検討した結果、図7-1に示すように、市販のPd(OCOCH3)2にアルキン存在下でカリウムtert-ブトキシド(t-C4H9OK)を作用させたパラジウムナノ粒子が、DMF溶液中で1年以上も安定に保存できることを見いだしました[G1]。このナノ粒子を分析したところ、アルキンやアルキンオリゴマーにより安定化されていることがわかりました。このナノ粒子は均一系触媒として用いることができ、テトラブチルアンモニウムボロヒドリド((n-C4H9)4NBH4)を添加した触媒系がアルキン類の部分水素化に極めて高い活性を示し、対応するアルケンを高収率で与えました。例えば、4-オクチン (1a) を2万分の1当量のナノ粒子を用い、水素8気圧で反応させるとアルキンは5分間で消失し、>99%の収率で(Z)-4-オクテン (2a; 青色水素が二重結合を境に同じ側にある) が得られました。興味深いことに、アルキン消失後反応を続行しても、オクタンへの過水添やアルケンの異性化反応はほとんど起こりませんでした。このパラジウムナノ粒子–(n-C4H9)4NBH4触媒が極めて高い精度で選択的にアルキンだけを水素化することがわかります。また、触媒量を20万分の1当量に減らしても、その触媒機能は損なわれません。末端アルキンである1-ペンチン (1b) も高選択的に水素化され、1-ペンテン (2b) を98%の収率で得ることが出来ました。現在は化学系企業と共同で、実用化に向けた検討を行っています。

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アルキン存在下、Pd(OCOCH3)2を水素化ホウ素ナトリウムで還元して調製したパラジウムナノ粒子が、ニトロアレーン類の水素化において非常に高い触媒活性と官能基許容性を示すことを見いだしました(図7-2)[G2]。5万分の1当量の触媒を用いるだけで反応(水素8気圧)は完結し、アニリン生成物を定量的に与えます。触媒1000分の1当量であれば、大気圧の水素下でも速やかに反応します。一般に触媒として用いられているPd/C触媒の10倍以上高活性であることがわかりました。また、Pd/C触媒では一緒に還元してしまうホルミル基や、加水素分解されるベンズアミド基を損うこと無くニトロ基を水素化できます。アニリン誘導体は医農薬や染料等の原料として需要が多く、企業と共同で実用化に向けた検討も行っています。

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