イミン類の不斉水素化反応

イミン類は極性のある炭素—窒素二重結合をもち、ケトン類に似た性質を示します。そして、ケトン類を水素化することでアルコール類が得られたのと同様に、これらイミン類を水素化することでアミン類が得られます。わたしたちはケトン類の不斉水素化反応で得た知見を基に、イミン類の不斉水素化反応の開発に着手しました。生成物である光学活性アミン類は天然物や医農薬等の生理活性物質の鍵となる構成要素であり、その効率的な合成法の開発が世界中で行われています。
構造が類似していても反応性の相違は大きく、ケトンの反応で用いた条件では満足する結果が得られませんでした。しかし、触媒構造と反応条件を詳細に検討することで、高い反応性とエナンチオ選択性を実現する触媒系の構築に成功しました。代表例を図3-1に示します。窒素上にアリール基をもつイミンをXylSkewphosとDPENを配位子とするルテニウム錯体を用い、塩基の存在下トルエン中で水素化することで、対応する光学活性アミンが高純度 (99% ee) で得られました[C1]。反応性も高く、触媒の1万8千倍のアミンを合成できます。(PDF)

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酸化的に除くことのできるオルトメトキシフェニル基(OMP基)を保護基とする種々のイミン類の不斉水素化例を図3-2に示します[C1]。芳香族イミン類を効率的かつエナンチオ選択的に水素化できることがわかります。

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実は、この触媒は、OMP基をN上の保護基とするイミン以外でも効率的に水素化することが可能です。図3-3に本不斉水素化を生理活性物質中間体合成に応用した例を示します[C1]。本反応の実用化を視野に入れた検討も行っています。

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ケトン類の不斉水素化で極めて高い活性とエナンチオ選択性を示すルテニウム触媒:RUCYが適切な条件下、複素環芳香族2-メチルキノキサリンの不斉水素化に対しても優れた性能を示すことを見いだしました(図3-4)[C2]。二つある炭素—窒素二重結合を両方とも水素化し、右側の芳香環を完全に還元することでほぼ光学的に純粋な生成物を定量的に合成できます。

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この触媒は、図3-5に示すように、多様な置換様式をもつキノキサリン類を高選択的に水素化することができます[C2]。触媒量を多めにすることで、大気圧程度の水素下でも反応することがわかりました。

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水素化生成物である光学活性テトラヒドロキノキサリンおよびその類縁体は、図3-6に示すように、多くの生理活性物質の骨格中に見られます。本不斉水素化の実用化を目指した検討を行っています。

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