不斉シアノ化反応

光学活性なシアノヒドリン類(図5-1中段の化合物)は、医薬などの原料として重要な光学活性α-ヒドロキシカルボン酸誘導体やβ-アミノアルコール類など(上段の化合物参照)、多彩な化合物の等価体として注目されています。そのもっとも効率的な合成法の一つに、アルデヒド類の不斉シアノ化反応があります。わたしたちは独自の光学活性触媒を用い、アルデヒドとシアン化トリメチルシリル((CH3)3SiCN)またはシアン化水素(HCN)を反応させ、光学活性シアノヒドリン類を高立体選択的に合成する方法の開発を目指しました。

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わたしたちは、不斉水素化反応の研究で培った知見をもとに、図5-2に示したフェニルグリシナート(Phgly)とBINAPを配位子とする新規な光学活性ルテニウム錯体を合成しました[E1]。この錯体は非常に安定で、それ自身はほとんど触媒として働きませんが、炭酸リチウムと組み合わせることで、世界最高水準の触媒活性と立体選択性を示します。1万倍量のアルデヒドと(CH3)3SiCNを–78 °Cで反応させ、右手型(R):左手型(S) = 99:1の生成物が定量的に得られました。

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優れた触媒作用を示すルテニウム錯体/リチウム塩触媒系の構造について検討した結果、図5-3に示すルテニウム・リチウム複合錯体を単離、構造決定することができました[E2]。非常に興味深い構造です。この複合錯体を触媒に用いることで、効率的なアルデヒド類の不斉ヒドロシアノ化反応(シアン化水素をシアニド源に用いる反応)に初めて成功しました。触媒量を2000分の1当量まで減らすことができますので、従来法の50〜100倍の効率です。

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Phgly/BINAP–ルテニウム錯体は、リチウムフェノキシド(C6H5OLi)と組み合わせることで、より高い触媒活性を示すことがわかりました[E3]。そこで、図5-4に示すように、この触媒系を用いて官能基をもつケトン類の一種であるα-ケトエステル類の不斉シアノシリル化反応を試みたところ、触媒を1000分の1当量用いるだけで、–60 °Cの反応は完結し、R体の4置換シアノヒドリン化合物が99% eeで得られました。–50 °Cの反応では、触媒を1万分の1当量に減らしても98% eeの生成物が定量的に得られました。α-ケトエステル類の高立体選択的シアノ化に世界で初めて成功しました。

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官能基化されたケトン類の代表的な例であるフェニルグリオキサール ジメチルアセタール(,-ジアルコキシケトン)の不斉シアノシリル化を検討したところ、t-Leu/BINAP–ルテニウム錯体(t-Leu: tert-ロイシナート)が最も高いエナンチオ選択性を示すことがわかりました(図5-5)[E4]。ケトンの構造により、最適なアミノ酸配位子が異なることを示す興味深い結果です。この場合も、1万分の1当量の触媒で反応が完結します。

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Phgly/BINAP–ルテニウム錯体とC6H5OLiから調製される触媒は、図5-6に示すように、α,β-不飽和ケトン類の共役ヒドロシアノ化反応にも優れた触媒活性と立体選択性を示すことがわかりました[E5]。0 °Cの穏和な条件下、反応は速やかに進行し、光学活性β-シアノケトンが96% eeで得られました。1000分の1当量に触媒量を減らしても反応は完結いたします。従来の触媒の5〜10倍の効率です。また、ルテニウム錯体はシリカゲルカラムにより分離し、回収・再利用することができます。実用性の高い共役ヒドロシアノ化反応を開発することができました。

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この不斉シアノ化反応は、医薬等の合成中間体として重要な光学活性β-シアノカルボン酸誘導体の合成にも適用することができます。検討の概要を図5-7に示します。アシルピロール類との反応で高い反応性とエナンチオ選択性の獲得に成功しました。基質一般性も高く、実用的な反応です。

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イミン類のシアノ化反応はStrecker反応として知られ、アミノ酸誘導体合成に用いられています。わたしたちは、優れた不斉Strecker反応を開発できれば、天然型、非天然型を含む多様な光学活性アミノ酸誘導体合成に役立つと考え検討を行いました。図5-8に示す窒素上にベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)をもつアルジミン(アルデヒド由来のイミン)がα,β-不飽和カルボン酸誘導体と等電子的であることに着目し、Phgly/BINAP–ルテニウム錯体とC6H5OLiから成る触媒を用いてシアノ化を行ったところ、非常に高い反応性とエナンチオ選択性が得られました[E6]。例えば、5000分の1当量の触媒量、0 °Cで反応は2時間以内に完結し、96% eeのシアノ化生成物が得られるので実用性の観点からも優れています。

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